記憶に新しいと思いますが、姉歯事件で構造計算書偽装事件が世間を騒がし、その結果建築確認行政の規制が厳しくなりました。たとえば、建築確認における構造計算書の作成は、一級建築士の資格を持ち、かつ構造設計の実務経験5年以上の者が受ける構造設計一級建築士の資格を持った者でないとできないことになりました。その構造設計一級建築士の合格率は一般の(設計事務所に勤務する)一級建築士では2割前後でとても厳しいものです。
それだけでなく、建築確認においては審査機関の側も、構造設計一級建築士の資格を持った者でないと審査もできないことになりました。現在は不況の最中ですから、仕事量が少なく審査が滞ることは少ないようですが、それでも建築確認申請を行政が受理するまで以前より数倍の日数がかかるようになりました。構造設計においては、申請に関わる建築主の費用負担も大きく増えました。
そもそも建築確認とは、建築士が行う建築行為を書類として事前に行政に申請し、行政が建築基準法に照らし合わせて合法であることを「確認」する行為であって「建築許可」ではありません。 姉歯事件では、行政が許可した(?)として行政も責任を問われましたが、行政は国家資格を持った建築士の仕事を確認したのであって、本来は中味については国家資格を持った建築士の責任だと思います。
姉歯事件の時、行政に責任を取らせたいという国民感情は理解できますが、結果的に行政は責任を取らないばかりか、建築士の構造計算に関わる資格を厳しくし、審査を厳重にすることで解決を図りました。あの偽装事件は資格や能力の問題ではなく、行政の専門家まで騙せるような能力まで充分あったから偽装できたのであって、そもそも構造計算の資格の問題ではなく、建築士のモラルの問題だったと思います。建築する側の自己責任だと思います。
ここで重要なことは、これまで行政は自らの責任を逃れるために、あの手この手で規制を厳しくしてきました。この結果、経済行為という面からいうと、厳しくなった規制は経済の行為の足を引張り、血液でたとえるなら動脈硬化の原因になっていると言えるでしょう。これも不況の原因のひとつです。
私の考えは、「行政は、責任を取らないのなら口は出すな」です。建築確認においては、他人に迷惑をかけるかどうか、集団規定の部分(たとえば建ぺい率や容積率、道路斜線)だけを審査して、個人の行為の部分(たとえば構造計算、採光、避難、防火など)は国家資格である建築士の責任において行われるべきであると思います。医師や弁護士など国家資格というものはそういうものです。
景気対策では、お金をばら撒くよりも、さまざまな経済行為の中で「規制緩和」がもっとも有効なのではないでしょうか。経済が活性化すると思います。 ちなみに、私も姉歯事件のおかげで構造設計一級建築士の資格を持っています。この資格はなければ困りますが、モラルの方が大事だと思っています。 今晩、宇部ソフトテニス連盟の三役会です。 |
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